教育
本学科ではデータプロフェッショナル(広義のデータサイエンティスト)を養成します
近年のインターネットの普及、ソーシャルメディアの台頭、IoTデバイスの急増といった情報化社会の進展によって、データは私たちの生活のあらゆる側面に影響します。スマートフォン、SNS、IoTデバイス、医療機器など、日常生活で使用される様々なデバイスやサービスは、毎日ペタバイト単位の膨大なデータを生み出しています。このような「ビッグデータ」の時代では、データを適切に収集、解析、解釈し、意味のある情報や知識に変換する能力は、経済、医療、エンターテインメント、公共政策などの多くの分野での重要性が増し、データを取り扱う専門家(データプロフェッショナル)はあらゆる業界において組織の意思決定やイノベーションの中心となりつつあります。あらゆるデータが収集・分析され、その結果がビジネス、政策、日常生活のあらゆる側面で利用される社会、いわゆるデータ駆動型社会を迎えつつある世界では、全ての領域において、データを取り扱う専門家であるデータプロフェッショナルが必要とされています。
現代社会がデータ駆動型社会へと変わってきた背景には、デジタル化の進展とデータ収集技術の革新があります。毎日、膨大な量のデータが生成され、これを解析し活用することで、さまざまな分野での意思決定が根本的に変わりつつあります。現在、データを効率的に収集し、解析する技術が飛躍的に進歩しています。クラウドコンピューティングの普及により、大量のデータを保存し、アクセスすることが可能になりました。また、人工知能(AI)と機械学習の発展によって、これまで人間が行っていた複雑なデータ解析が自動化され、より高速かつ正確に行えるようになっています。
このような社会では、データに基づくアプローチが透明性を提供し、個別化されたサービスを実現しますが、同時にプライバシーの保護、データのセキュリティ、倫理的な使用に関する課題も伴います。データ駆動型のアプローチは、経済、医療、教育など幅広い分野でポジティブな変化をもたらす一方で、デジタルディバイドといった新たな社会問題も引き起こす可能性があり、これらを如何にして克服していくかが、データ駆動型社会の未来を左右する鍵となります。そのような社会の担い手こそがデータプロフェッショナルと呼ばれる専門家たちです。
しかし、データを取り扱う専門家であるデータプロフェッショナルは我が国で決定的に不足していることから、大学にもその養成を急ぐことが求められている状況です。我が国ではデータサイエンティストという言葉を広義に解釈してデータプロフェッショナルと同義に用いていることも多いのですが、実際には、データを取り扱う専門家(データプロフェッショナル)にはデータサイエンティスト(データサイエンスの知識とスキルを持った人材)の他にもデータエンジニア、データアナリストなどを始め、次のような様々な職種があり、データサイエンティストはその内の一つの職種・職域を示す言葉です。
クライアント(依頼人、経営者)と共に企業や組織のデータを分析し、組織マネジメント上の課題を可視化・解決するための意思決定を支援します。例えば、小売企業や金融機関で、売上データや顧客データを分析し、トレンドやパターンを特定して、価格戦略や顧客セグメンテーションを最適化する役割を担います。また、BIツールや統計手法を駆使し、経営陣や他部門にわかりやすくレポートやダッシュボードを提供する業務を担当します。
大企業やスタートアップで、大量のデータから有益なインサイトを抽出し、組織マネジメント上の戦略策定を支援します。例えば、人材サービス企業などで、顧客行動、市場トレンド、商品の売り上げデータを分析し、ビジネスインサイトを提供して新しいマーケティング戦略や商品開発に貢献する仕事ですデータサイエンティスト
企業のデータ基盤を設計・構築・運用する専門職で、膨大なデータを効率的かつ安全に処理できる環境を提供します。例えば、大規模なクラウド環境やオンプレミスのデータ基盤において、 ETL(Extract, Transform, Load)プロセスの設計・データパイプラインの構築を行い、データの一貫性と可用性を確保します。また、データアーキテクトと連携し、データの保存・取得・処理の最適化を行い、データサイエンティストやアナリストが分析しやすい環境を整備します。
マーケットデータを解析し、広告戦略や顧客セグメンテーションの最適化を行います。 例えば、通信・ネット関連企業などで、顧客データと市場動向を解析して、ターゲット広告やプロモーション活動の計画と実行をサポートします。
業務プロセスを分析し、データ駆動型の改善提案を行います。 例えば、情報・ネットワーク技術を基盤とした事業会社などで、顧客のビジネスプロセスを分析し、ITソリューションによる効率化や新規ビジネスモデルの策定を行います。
製品のライフサイクル全般を管理し、データ分析を基にした製品改善を行います。例えば、物流・印刷企業などで、印刷・物流サービスの製品ライフサイクル管理を行い、顧客ニーズに合わせた製品改善を推進します。
ITシステムの効率化を図り、業務の自動化やシステム統合を提案します。例えば、情報通信関連企業などで、クライアントのITシステムを分析し、改善点を見つけ出して、効率的なシステム改革を行います。
企業のリスクを評価し、リスク軽減戦略の策定を支援します。例えば、生命保険会社や損保会社などで、保険金請求予測、事故率の統計分析を行い、リスク対策の立案と実行を行います。
医療機関や保険会社で患者データや治療成績を分析し、医療の質向上に貢献する職業です。例えば、病院の電子カルテや診療データを活用して、治療の効果を評価し、医療サービスの最適化を図ります。また、病院経営のデータ分析を行い、運営効率の改善に貢献する役割も担います。
新薬の開発や治療法の効果を評価するために、臨床試験データを解析する職業です。例えば、製薬会社や医療機関で、治験の結果を統計的に解析し、有効性や副作用を評価します。また、臨床研究のデータ管理を行い、規制機関への報告資料の作成にも関与します。
ゲノム解析や分子生物学的データの分析を専門とする職業で、創薬や疾患予測に貢献します。例えば、DNAシーケンスデータを解析し、特定の疾患に関連する遺伝子を特定する研究や、生物学的データ解析を通じて病気の原因を探ることで治療を支援します。
疫学データや人口統計を分析し、公衆衛生の改善や感染症対策の立案を支援する職業です。例えば、政府機関や国際機関で、感染症の流行データを解析し、予防政策の立案に貢献します。また、社会的要因が健康に与える影響をデータに基づいて評価し、政策提言を行います。
CT、MRI、X線などの医療画像データを解析し、診断支援システムの開発をサポートする職業です。例えば、ディープラーニングを活用して病変の自動検出アルゴリズムを開発し、医師の診断を支援します。また、医療機関と連携し、画像データの標準化や統合管理を行う業務も担当します。
機械学習アルゴリズムを用いて、データからパターンを抽出し、予測や意思決定を自動化するAIシステムの開発を行う職業で、モデルの設計・学習・評価・デプロイを担当します。例えば、金融機関では不正検知システム、Eコマースではレコメンデーションエンジン、製造業では異常検知システムなど、業界・専門領域ごとに異なる機械学習モデルの最適化を行います。また、データサイエンティストやデータエンジニアと協力しながら、大規模なデータセットの処理や、モデルの実装・運用を支える役割も担います。
コンピュータビジョン技術の研究・開発に特化した職業で、画像や動画から情報を抽出し、自動認識・解析を行うアルゴリズムを設計・実装する役割を担います。例えば、自動運転車や監視システムにおいて、カメラの映像をリアルタイムで解析し、物体認識や行動分析を行うAIモデルを開発します。また、医療分野では、X線画像やMRI画像の診断支援システムを構築するなど、さまざまな産業分野での応用が求められます。
自然言語処理(NLP)技術を活用し、人間の言葉を理解・生成するAIシステムの開発を行う職業で、テキストデータの解析、音声認識、機械翻訳などに関わるアルゴリズムを設計・実装する役割を担います。例えば、AIチャットボットや音声アシスタント(Siri、Googleアシスタントなど)の開発、文書の要約・感情分析を行うシステムの構築、検索エンジンの高度化などを担当します。言語モデルの精度向上のために、大規模データを活用した機械学習・ディープラーニングを駆使することが求められます。
金融市場において、高度な数学モデルや統計手法を用いて投資戦略やリスク管理のための数理モデルを開発する専門職です。例えば、金融・証券企業などで、複雑な数理モデルやアルゴリズムを用いて、リスク管理や資産運用戦略や投資戦略の最適化を行います。プログラミングスキルと金融工学の知識を活かし、データを駆使して市場の変動を予測し、投資判断の精度を向上させる仕事です。
保険、年金、金融分野において、統計学や確率論を用いてリスクを評価し、適切な保険料率や年金制度の設計を行う専門職です。例えば、生命保険会社では、顧客の年齢、健康状態、職業などのデータを分析し、将来の死亡率や疾病発生率を予測することで、保険商品の価格設定やリスク管理を行います。また、企業年金制度の設計や、金融リスクの評価など、データに基づいた意思決定を支援する仕事です。
システムやネットワークのセキュリティ対策の設計・実装・運用 を担う専門職で、企業の情報資産をサイバー攻撃や不正アクセスから守る役割を担います。例えば、金融機関やECサイトにおいて、ファイアウォールやIDS/IPSの設定、アクセス制御の最適化を行い、組織全体のセキュリティポリシーを策定・実施します。また、定期的な脆弱性診断やセキュリティ監査を通じて、システムの安全性を維持し、従業員向けのセキュリティ教育も担当します。
データ基盤の構築と維持に特化した職業で、組織のデータ管理戦略を設計し、データの構造やフローを最適化する役割を担います。例えば、大規模なECサイトや金融機関において、データの保存・統合・利用を最適化するためのデータベース設計やデータモデリングを行い、データの信頼性や可用性を確保します。また、データエンジニアと協力して、スケーラブルで効率的なデータ基盤を構築し、データサイエンティストやアナリストが分析しやすい環境を提供する業務を担当します。
企業のデータを安全かつ効率的に管理するために、データベースの設計、運用、保守を担当します。例えば、金融機関やEコマース企業などで、顧客情報や取引データが正しく保存・取得できるよう、データベースのパフォーマンスチューニング、バックアップ、セキュリティ管理を行います。また、障害発生時の対応や、システムのアップグレードを通じて、データベースの安定稼働を支える仕事です。
システムやネットワークの脆弱性を発見するために、ハッカーと同様の手法を用いてセキュリティテストを実施する専門職です。例えば、金融機関や大手企業で、Webアプリケーション、クラウドシステム、ネットワークの脆弱性診断を行い、企業のセキュリティレベルを評価・強化します。また、発見した脆弱性に対する改善策の提案やセキュリティ対策の強化を支援し、組織がサイバー攻撃を未然に防げるようにする業務を担当します。
セキュリティオペレーションセンター(SOC)に所属し、企業のシステムやネットワークをリアルタイムで監視し、サイバー攻撃や不正アクセスの兆候を検出する職業です。例えば、大手企業や政府機関において、 SIEM(Security Information and Event Management)ツールを活用し、異常なトラフィックや不審なログイン試行を監視・分析し、攻撃の可能性がある場合には迅速にインシデント対応を行います。また、攻撃のパターン分析やレポート作成、セキュリティ改善提案を通じて、企業の情報資産を守る役割を担います。
とはいえ、知識とスキルから分類されるデータプロフェッショナルの職種・職域は、3つの職種(データアナリスト、データサイエンティスト、データエンジニア)が基本となっており、他のデータプロフェッショナルはこの3つから派生した職種・職域と捉えることができます。基本となる3つの職種・職域の一角を占めるデータサイエンティスト(その学問領域としてのデータサイエンス)は、そのため極めて重要です。また、我が国ではまだ一般になじみの薄い職種・職域ではありますが、同様に、データアナリスト(その学問領域としてのデータアナリティクス)とデータエンジニア(その学問領域としてのデータエンジニアリング)も重要です。
データプロフェッショナル(データアナリスト、データサイエンティスト、データエンジニア)を養成するには、養成に最適化されたカリキュラム(教育プログラム)と、その授業を担当できる知識とスキルを持った優秀な教員(専門領域研究者)、それと最新の教育設備(高速大容量通信と高性能コンピュータ)、この3つを整えることが教育の基本です。
博多大学は、教育の基本に忠実にしたがい、この3つを整備して学ぶ意欲ある受験生を迎え入れる大学です。
データプロフェッショナルの養成は高校での文系学習と理系学習の別とは基本的に関係はありません。
博多大学データサイエンス学部のカリキュラムは文系学生を対象とするものではなく、理系学生を対象とするものでもありません。高校での文系・理系を問わずに学ぶことができるカリキュラムです。
博多大学の教育に対する基本的な考えは次の「入学者受け入れ方針」、「教育課程の編成・実施方針」、「卒業認定・学位授与の方針」として示します。
入学者受け入れ方針(アドミッションポリシー)
データサイエンス学科では、高度情報社会で活躍するデータプロフェッショナルを育成するため、チャレンジ精神と学ぶ意欲を持った次のような人の入学を求める。
国語、数学、外国語の基礎学力を有し、物事を論理的に考えることができる人
社会の課題に関心があり、課題解決に貢献する意欲のある人
既成の枠組みに拘らずに自由な発想ができる人
プログラムを組んで何かを作ったことがあるなど、自分で考え、創造する力を持つ人
自分の考えを的確に表現し、聞き手を引きつけるプレゼンテーションができる人
教育課程の編成・実施方針(カリキュラムポリシー)
データサイエンス学科では、学位授与方針に掲げる能力を養成するために、データ分析技術の修得、グローカルな視点の修得、内容領域の課題を解決する実践力の修得、を目指した次の教育目標を実現するための教育課程を編成し実施する。
数理統計科目群およびデータエコシステム基盤科目群の系統的学習を通じて、専門的なデータ活用技術を身につける。
グローカル教養科目群など教養科目の学習を通じてグローカルな視点を持って課題を発見し、解決する思考力を身につける。
経営・データアナリティクス、ヘルスケア・データアナリティクス、AI・データサイエンス、セキュリティ・データエンジニアリングの4つから1つを専攻として系統的に学習し、データプロフェッショナルとして内容領域の課題を解決する実践力を身につける。
卒業認定・学位授与の方針(ディプロマポリシー)
データサイエンス学科では、大学設置基準に基づき本学が定める履修要件に沿って124単位以上を修得し、次の能力を身につけた者に卒業を認定し、学位を授与する。
数理統計、データエコシステムについての豊かな専門知識を身につけている。
グローカルな視点を持って課題を発見し解決する思考力を身につけている。
内容領域での知識をもとに、的確に課題を認識し、その解決を提案・実施・実現する実践力を身につけている。